病院と訪問看護の違いってなんだろう? 実際に両方で働いたことのある看護師が語る。

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訪問看護に興味はあるけれど、具体的な仕事内容が分からずに転職するか悩んでいませんか? 高齢社会対策のひとつとして、厚生労働省も在宅医療の推進をはかっており、近年は看護学校を出て間もない若い看護師さんも訪問看護業界にどんどんチャレンジしているようです。

私は病院勤務から訪問看護へ転職する際、具体的な仕事内容がイメージできないまま不安を抱いていましたが、実際に働いてみて病院看護と訪問看護の違いを理解することができました。

当記事を読み、訪問看護の仕事内容や病院看護と比べた訪問看護の違いについて知っていただくことで、訪問看護の仕事をより具体的にイメージでき、転職への不安を減らすことができれば嬉しいです。

訪問看護はどんな仕事をするの?必要な看護技術は病院で行う看護技術と違うの?

訪問看護の仕事は学校の授業や実習で学ぶ以外は、ほとんど知る機会がないため、どのような仕事なのか分かりづらいと思います。そこで、訪問看護の仕事内容について詳しくご紹介します。

訪問看護に求められる看護技術は、病院で行う看護技術と基本的に同じです

訪問看護は、主治医が訪問看護が必要と認めた方に対して訪問看護指示書に基づき、患者さんのご自宅を訪問して健康状態の観察や療養指導、医療処置などを行います。

訪問看護は、介護保険(要支援・要介護の方)または医療保険(難病など厚生労働大臣が定める疾病等の方)が適用されます。介護保険と医療保険では、訪問回数の上限などが異なりますが、提供する看護ケアに違いはありません。

代表的な看護処置は、以下の通りです。

  • 服薬の管理・指導
  • 排泄ケア(尿管カテーテル管理・交換、摘便など)
  • 褥瘡の予防・処置
  • 点滴
  • 血糖測定・インスリン注射指導
  • 在宅酸素管理・指導
  • 呼吸ケア(吸引、口腔ケアなど)
  • 清潔ケア(入浴介助、清拭、足浴など)
  • リハビリ
  • ターミナルケア 等

病院に勤めていれば経験したことのある看護技術なので、訪問看護でも困らずに対応することができます。

両方を経験した看護師が語る!病院看護と比べた訪問看護の7つの違い

患者さんの自宅に伺って1対1で対応する訪問看護は、病院看護とは違って難しそうなイメージを抱いているかもしれません。

実際に両方で働いたことのある私が感じた病院看護と訪問看護の違う点についてご紹介します。

  • 治療に対する”キュア”ではなく生活を支える”ケア”が優先
  • 患者さんや家族とじっくりと関わることができる
  • 訪問先では自分1人で患者さんへの全ての対応を行う
  • 限られた資材や患者さんの自宅にあるもので対応
  • 医療・介護の幅広い他職種との協力体制が必要
  • 基本的に平日日勤のみ、夜間休日はオンコール当番制での勤務
  • 訪問看護計画/報告書を主治医とケアマネジャーへ毎月報告

これらの違いが分かると、訪問看護の仕事が具体的にイメージでき、転職への不安が軽減されるでしょう。

治療に対する”キュア”ではなく生活を支える”ケア”が優先

病院では治療に対する”キュア”を行いますが、訪問看護では患者さんの生活を支える”ケア”が優先されます

病院では病気を治すための検査や治療が優先。一方、訪問看護が伺う在宅は患者さんの生活の場であるため、病気や障害を受け入れながら患者さん・ご家族の意向や生活を尊重して支援します。

病院とは異なり、患者さんのご自宅を訪問すると、その方の生活の様子がとても分かります。食事・入浴なども患者さんの生活に直結しているため、訪問看護ではより生活に密着した看護ケアを行うことが大切です。

患者さんや家族とじっくりと関わることができる

病院ではナースコールや急変患者さんの対応などがあり、1人の患者さんとじっくり関わることが難しいです。訪問看護では、患者さんや家族と1対1で関わるためじっくりと関わることができます

訪問看護は1人の患者さんに1回30〜90分、週に3回までの訪問が可能です。病状悪化やターミナルなどの場合は、主治医から特別訪問看護指示書を受けて週4日以上の訪問が可能となります。

患者さんや家族と1対1で関わる時間が確保されているため、落ち着いて接することができ、たわいない会話から看護ケアをする上で重要な情報が得られることもあります。

患者さんや家族から直接感謝の言葉を聞くことも多々あるため、看護師としてのやりがいを感じられます。

訪問先では自分1人で患者さんへの全ての対応を行う

病院では近くに他のスタッフがいるため、困った時はすぐに助けを求められますが、訪問看護は1人で訪問し患者さんの対応を行わなければなりません。

訪問看護を行っていると、どうしても判断に迷う場面があります。

私も訪問看護に転職したての頃は、1人で判断し対応することに戸惑いを感じていました。しかし、判断に迷う時は管理者や先輩看護師に電話で相談したり、次回の訪問時に一緒に同行してもらうこともできます。毎日の朝礼等でもスタッフ間で患者さんの情報を共有し、必要な時は今後の対応についてミーティングするため、スタッフ全員で患者さんを支えている安心感が持てます。

管理者や先輩看護師に相談しながら行うことで、自身の判断や対応の経験値アップにも繋がります。

限られた資材や患者さんの自宅にあるもので対応

病院では高度な機材や資材が揃っていますが、訪問看護では患者さんの自宅に訪問するため機材や資材が揃っていないことがあります。

在宅酸素や持続注射器、カテーテルなど必要な在宅医療機器は自宅に持ち込む必要がありますが、患者さんの自宅にあるもので代用することも大切です。例えば、褥瘡予防の体交まくらの代わりにタオルを丸めて使用したり、清潔ケアで使うタオルやバケツなどは自宅にあるものを使用します。

また、病院では看護助手さんが備品の管理や片付けを行ってくれることが多いと思いますが、訪問看護では一人で全て行わなければなりません。

最初のうちは物品の在庫確認・発注、準備や片付け、機材の消毒などに少し時間がかかりますが、慣れてしまえば短時間で対応できます。

医療・介護の幅広い他職種との協力体制が必要

病院では治療や退院に向けて、医師・看護師・薬剤師・栄養士・医療ソーシャルワーカーなど病院内のスタッフが関わります。訪問看護では、患者さんの生活を支えるより多くの医療・介護スタッフが介入するため、幅広い他職種との協力体制が必要です。

介護保険での訪問看護では、ケアマネジャーが毎月作成するケアプランに基づき訪問日や回数が決まります。ケアプランには、訪問看護だけでなく訪問介護、訪問入浴、福祉用具貸与、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)などが含まれ、利用者に合わせた内容に調整します。

そのため、患者さんの状態についてケアマネジャーへの定期的な報告が必要です。また、患者さんに関わるこれらの他職種スタッフが集まるサービス担当者会議が定期的に開かれ、より良い提供サービスを相談します。

病院とは異なる医療・介護の幅広い他職種と関わることで、患者さんの生活を支えるチーム体制を強く実感できます。

基本的に平日日勤のみ、夜間休日はオンコール当番制での勤務

病院は日勤夜勤の不規則勤務ですが、訪問看護は基本的に平日日勤のみの勤務です。そのため、病院勤務と比べると生活のリズムが整いやすくなります。

訪問看護と聞くと、夜間休日のオンコールでの対応が大変だと思うかもしれません。

オンコールは自宅でオンコール用の携帯電話を持ち、待機することになります。私も最初のうちは、いつ電話が鳴るか分からず、緊張して休日は外出できずにいました。しかし慣れてくると、すぐに患者さんの元へ駆け付けられる範囲での散歩や買い物、外食は問題なく行えます。

オンコールの回数や頻度は、状態悪化やターミナルの患者さんがいる場合は普段より少し多くなりますが、通常は患者さんの自宅に緊急訪問することはそこまで多くありません。

日本看護協会の2014年の訪問看護実態調査によると、オンコールの平均待機回数は1ヶ月で9.4回ですが、実際に出動した平均回数は1ヶ月で1.6回でした。そのため、オンコール当番で電話が鳴ったとしてもほとんどが出動せずに電話対応で解決できています。

オンコールは慣れてしまえば、そこまで頻度は高くないため、大きな負担を感じなくてもよいと思います。

訪問看護計画/報告書を主治医とケアマネジャーへ毎月報告

病院と異なるもう一つの点は、訪問看護計画/報告書の作成です。

訪問看護は主治医の指示に基づき患者さんへ介入します。また、介護保険の場合はケアマネジャーが作成するケアプランに基づき、訪問看護の時間や回数が決まります。

訪問看護では初回訪問時に訪問看護計画書を作成し、適宜プランの修正が必要です。

そして、主治医と連携を図り、最適な看護を提供するため、患者さんの状態や実施した看護ケアの内容を記した訪問看護報告書を毎月、主治医に提出します。同じようにケアマネジャーがケアプランの修正の必要性を判断するために毎月、訪問看護報告書の提出が必要です。

このように訪問看護報告書の提出を通じて、主治医やケアマネジャーと連携をとりながら、患者さんに最適なケアを提供することができます。

実際の経験をもとに訪問看護の1日の流れをご紹介

訪問看護の特色について理解していただいた上で、実際に私が経験をもとに1日の訪問の流れをご紹介します。

典型的な1日の流れ
  • 8:30
    朝礼、事務所掃除

    夜間のオンコール対応や状態変化のある患者さんの情報共有、連絡事項の確認、1日のスケジュールなどを確認します。事務所の掃除も行います。

  • 9:30
    1件目の訪問

    1件目のお宅へ訪問。在宅酸素使用中の患者さんですが、2日前に発熱し軽度の肺炎を発症。その日から特別訪問看護指示書が発行され、5日間抗生剤の点滴指示が入ったため、本日も点滴実施。

    本日解熱し、痰も軽減、SpO2も落ち着いているため、ひと安心。主治医にも電話で報告します。

  • 11:00
    2件目の訪問

    自己インスリン注射を開始して間もない患者さんの血糖値、低血糖症状の有無などを確認。

    昼食の直前にインスリン注射の手技を一緒に確認しながら、インスリン注射を見届けます。手技に慣れてきているため、引き続きその方法で良いことを伝え、低血糖症状が出現した時の対処法を指導します。

    患者さんの美味しそうな昼食の匂いがしてきて、お腹が空いてきました。

  • 12:30
    昼休憩

    事務所に戻って、昼食を食べて少し休憩。時間がある日は、近くのお店に食べに出かけたりもします。

  • 13:30
    3件目の訪問

    要支援ですが、1人暮らしで認知症がある患者さんの状態観察と服薬確認。

    訪問すると、畑仕事をしており、畑で会話しながら体調を確認します。

    その後、家の中へ一緒に戻り、きちんと服薬できているかお薬カレンダーの残数を確認。2回分の残薬が残っており、飲み忘れがあったようですが、体調には変化がない様子。次の1週間分のお薬をセットし、「忘れずに飲んでくださいね」と声掛けをして訪問終了。

  • 14:30
    4件目の訪問

    寝たきりの患者さんの陰部洗浄と、前日からお通じが出ていないようなので摘便実施。

    仙骨部を確認すると、発赤を発見!表皮剥離はなく軽度のため、白色ワセリンを塗って除圧できるように体位交換を実施。ご家族にもおむつ交換時の白色ワセリン塗布と除圧を行っていただくように指導します。

  • 15:30
    5件目の訪問

    帯状疱疹後下肢痛のある患者さんの入浴介助とリハビリ実施。

    下肢痛の緩和のため、足浴を行いながら洗髪や身体を洗います。

    リハビリの効果で以前よりも下肢の挙上ができるようになったと喜んで話されていました。

    患者さんの十八番の歌を一緒に歌いながら、楽しくリハビリを実施します。

  • 17:00
    記録・報告・ミーティング

    事務所に戻って、足りていない箇所の記録を追記します。

    本日のオンコール当番に、夜間対応の可能性のある患者さんについて状態を報告します。1件目の患者さんは肺炎が落ち着いてきており主治医にも連絡済であることを、念の為に報告。

  • 17:30
    退社

    本日の業務は終了。お疲れ様でした。

まとめ

訪問看護は看護技術自体は病院で行うものと基本的に同じですが、患者さんや家族との関わり方、限られた機材や物品での対応、幅広い他職種との協力体制などが異なります。

患者さんや家族の生活する場でじっくり関わり、地域に密着して働きたいという思いがあれば、訪問看護はとてもやりがいを感じられる仕事です。

当記事を読んで、訪問看護の仕事をよりイメージでき、転職の後押しになれば嬉しいです。