採用面接では、応募者が職場環境にマッチしているかを見極めるために、さまざまな質問が行われます。しかし、質問の内容によっては、応募者の人権を侵害して法律違反になる場合があります。例えば、「ご自宅は〇〇市のどちらですか?」のような緊張を和らげるためのアイスブレイクであっても例外ではありません。面接官がよかれと思ってした質問でも、求職者はひとつの質問からかえって緊張したり、気持ちが沈んだりして、それが態度や返答に出てしまいます。その結果、採否の判断に影響を与えることになります。
この記事では、採用面接で避けるべきNG質問の例と、その理由を紹介しています。面接で適切な質問をすることで、応募者の能力や適性を正確に見極め、採用の判断に反映することが大切です。
面接官が聞いてはいけない質問・注意すべき質問
結婚予定や妊娠に関する質問
採用面接で、「結婚のご予定はありますか」「結婚しても働けますか?」「お子さんのご予定はありますか?」などの質問は、個人のプライバシーにかかわる機微な情報であり、採用に必要な情報ではありません。また、これらの質問は男女雇用機会均等法に反することにもなります。ハラスメントという観点からも不適切な質問ですね。
(性別を理由とする差別の禁止)
第五条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
面接官は、必要な情報のみを収集し、それ以外の私生活に関する情報は質問しないように注意する必要があります。応募者自身が申告した場合は別ですが、面接官が聞くべきではない質問であるため、注意が必要です。
もしも採用後の業務において生じうる問題に関して確認が必要な場合には、適切な方法を慎重に考慮することが重要です。例えば、採用後に出産や子育てをする場合の福利厚生や制度に言及することで、意向を把握することが適切でしょう。
健康状態や既往歴(過去の病歴)に関する質問
採用面接において、健康状態についてヒアリングすること自体は、必要な情報収集として問題ありません。応募者の採用後の業務を円滑に行える健康状態であることは、採用活動において極めて重要だからです。ただし、個人情報保護法や労働安全衛生法などの法的枠組みに基づき、適切な方法で収集する必要があります。健康情報は個人情報保護法の「要配慮個人情報」に該当するため、取得の前には本人の同意が必要となります。
例えば、面接官が直接健康状態に関する質問をするのではなく、健康状態に影響する業務内容や職場環境などについて質問し、応募者自身が自ら健康状態について申告するよう促すことが適切でしょう。また、申告された情報は適切に管理され、採用選考に必要な範囲内で扱われるようにすることが求められます。
さらに、健康状態によっては、採用後に安全配慮措置が必要になることがあります。その場合は、採用時に必要な情報を収集し、その後の対応についても適切に行うことが重要です。健康状態に関する情報の取り扱いには十分な注意が必要であり、適切な方法で収集・管理することが大切です。
また、既往歴(過去の病歴)に関する質問は、過去の病歴が現在の業務を遂行する適性・能力には通常結びつかないこと、また、完治により就労に問題がない場合でも病気等のもつ社会的イメージにより不採用としてしまう恐れがあることから、問題があります。面接官が適正配置というつもりで既往歴を確認していても、応募者、特に既往歴がある方からすると、そういった質問をされることにより不採用とされてしまうのではないかという不安を生じさせることもありますので、ご留意ください。
本籍地や出生地に関する質問
面接官が「ご出身はどちらの県ですか?」といった程度の質問をするのは、面接の和やかな雰囲気を作るために役立つかもしれません。しかしながら、「〇〇市のどのエリアご出身ですか」「ご自宅は国道〇号線のどちら側ですか」といったような具体的な地名や場所を問う質問や「お父さんのご出身はどちらですか」といった類いの質問は、適切ではありません。採用に必要な情報以外の個人情報については、質問することは避けるべきです。個人情報保護法に基づき、採用に関係のない個人情報は適切に管理する必要があります。また、本籍や出生地に関する質問は、結果的に就職差別につながるおそれがあり、公正な採用選考から同和関係者や在日韓国・朝鮮人の人たちを排除してしまうことになりかねません。
家族構成や家族の職業、資産に関する質問
「あなたのお父さんは何の職業をしていますか?」や「あなたの両親は共働きですか?」「あなたの住んでいる家は持ち家ですか、賃貸ですか?」といった、一見何気ない質問も、実は個人の家庭や住宅環境に関わる重要な問題です。これらの情報は、採用に必要な情報とは関係がなく、かえって主観的な判断に基づく予断や偏見を招きかねます。採否判断の基準にすることは不適切であり、本人の努力では解決できない問題を採用の基準にすることにもつながります。よって、このような質問は避けるべきです。
思想や信条に関する質問
採用面接で、「家の宗教は何ですか?」「労働組合をどう思いますか?」「政治や政党に関心がありますか?」などの質問は、適切ではありません。これらは、憲法で保障されている個人の自由権に属することであり、採用に必要な情報とは関係がないため、面接で聞くべきではありません。
また、「あなたの信条としている言葉は何ですか?」や「あなたは、どんな本を愛読していますか?」などの質問も、一見、なんの問題もなさそうに感じますが、実は思想・信条の自由や個人情報保護に関わる問題があるため、避けるべきです。愛読書を質問した結果、その本の著書が面接官の思想や政治的見解と異なる場合、そこに予断と偏見が働くおそれがあるからです。採用面接で適切な質問は、応募者が持つスキルや経験、志望動機など、採用に必要な情報に絞って行うべきです。
採用側として行うべき対応策
アイスブレイクに適した質問を用意
冒頭で記したように、上記で挙げたようなNG質問は、面接官にとっては悪意のないアイスブレイク的な意図を持つものであるケースが少なくありません。採用面接でのNG質問を避けるためには、事前にアイスブレイク用の質問を用意することが重要です。応募者が話しやすい話題をリストアップし、来社方法や天気、面接についてなどの質問を用意しましょう。アイスブレイクに適した質問を用意することで、NG質問を回避できます。
以下はアイスブレイクの例です。
- 「ここまで迷わず来られましたか?」
- 「雨に濡れませんでしたか?」
- 「緊張されていますか?」
- 「今日はお仕事の帰りですか?」
- 「オンライン面接の経験はありますか?」 これらの質問は、応募者がリラックスして面接に臨むための良い切り口となります。
適性・能力のみを採用基準とする
採用基準が明確でないため、面接官が適性を見極めるために必死になって様々な角度からの質問を繰り出した結果、不適切な質問をしてしまうことがあります。看護師として働くために必要な適性や能力について、採用時にはどの程度の技能、経験、将来性が必要なのかを設定しておくことが重要です。
ここでちょっと寄り道。
フランチェスカ・ジノ(Francesca Gino)は、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、組織行動学の専門家です。彼女は、採用における倫理的判断についての研究を行っており、多くの論文を発表しています。
ジノは、採用担当者が候補者を選択する際に、さまざまなバイアスが働くことを指摘しています。例えば、採用担当者は、自分と似た人や、自分が好感を持つ人を選択する傾向があるとされています。また、採用担当者は、印象に残るような話や、覚えやすいような情報を重視する傾向があります。
ジノは、採用担当者が候補者を選択する際に、以下のような倫理的判断を行うことを推奨しています。
- 公平性の確保:採用担当者は、すべての候補者に対して公平な評価を行うことが重要です。自分と似た人や、好感を持つ人に偏って評価しないようにしましょう。
- 正確な情報の入手:採用担当者は、候補者について正確な情報を入手することが重要です。印象に残る話や、覚えやすい情報だけでなく、候補者のスキルや経験などについても注意深く評価しましょう。
- 候補者の多様性の考慮:採用担当者は、多様性を考慮して候補者を選択することが重要です。自分と似た人や、自分が好感を持つ人だけでなく、多様なバックグラウンドを持つ人を採用することで、組織に多様性がもたらされることになります。
- フィードバックの提供:採用担当者は、候補者に対して適切なフィードバックを提供することが重要です。フィードバックを通じて、候補者が自己改善を図ることができ、採用担当者も自分自身の評価基準を再考することができます。
例えば「スキルチェックシート」をあらかじめ用意しておき、面接前に求職者に記入してもらい、その内容に基づいてスキルについて質問することで、面接官の個人的な主観や偏見による判断を排除できるため、より公正な選考を行うことができるでしょう。「スキルチェックシート」を準備する際には、採用担当者と受け入れ側の現場が、適性や能力について整理し、客観的な選考基準を確定するようにしましょう。